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こいこいしいひん 98/5月号



 鯉ちゃんに恋してまいましてん。
 近所の川や野池に「淡水魚の王様」がなんぼでも居てんのに、釣りやる人は、なんか関心薄いなあ。高いぜに出して、舟雇うたり、磯や筏に出かけるより、手軽でおもろい釣りやと思うで。
 波止釣りの混雑と比べると、ここで釣りしとってもええんかな、と、きょときょとしてまうくらい誰も居てへん。

 鯉恋の始めは淀川の鯉や、生活排水が流れ込む所が狙い目や。天野川の出合い、芥川の出合い、街の川が流れ込む所はビックサイズの揃い踏みやで。
 その引きのすごいこと、百米は突っ走って、鈎を伸ばして逃げよんねんで、もう一発で、どつぼにはまってもうた。
 「どないでっか」手拭い鉢巻きの長靴おじさん、何故か、はあはあと、せわしない息をしながら、横に来て見物はじめよった。

「まだ来えへん……なあ」
 言うた時に竿先の鈴が鳴りだした、おっ来たな、もうちょっと食え、ええぞ、ぐっと来たとこで、フィッシュ!
「取り込み中悪いけどなあ……」
 ちょっと、おっちゃんそこ邪魔や、のいてのいて、ギリギリ、ギリギリとリールが鳴る。タモやおっちゃん!
「あのなあ……」
 鉢巻きおじさんタモ突き出してお手伝いしながら、もじもじしとる。
「うわぁお」
 見たか!これが鯉釣りじゃ。
 ありがとね、これからもよろしくね。パフィの歌も出てくるわい。

「わしなあ…ちょっと目離した時鯉に竿持ってかれてまいましてん」
 さよか、気持ち分かるけどなあ電車の忘れ物やないよ、簡単にはめっからんで、まずあかんやろ。
「あそこに見えたぁんねんけど」
何処やねん、おっさん指差すかなたに、ゆったりと大河の流れに押されて漂う黒いもの、あれかいな。
「あれやあれやあれでんが、すんません、仕掛け投げて取ってんか」

 簡単に言うなよ、最近バス釣りも行くけどよう、ピンポイントのキャストは練習中やで、おい、おっちゃん人にもの頼んどいてからそこでしょんべんすな、もっと遠くいってやれや。
「取ってんか、頼むさかい」
 しゃあない、ここはええとこ見せなならん、狙いつけてオーバーハンドや、までは上出来やが、ぼしゃ! 足元へ落下、おっさん目を覆っとる。
 こらあかん、二発目、おー行ったで、まぐれもええとこや、わしも腕ええがな、おっ、暴れとる、魚ついとるで「逃がさんといて」
何言うとんの、そな難しい注文をわしに頼むのは間違いやで、でけまっかいな。
うわぁ、魚も暴れよる、外れそうや、魚は諦めえ、竿が流される。
「しゃあない、竿だけでも」
 おっさん膝まで川の中に飛び込んで竿掴むと、子供みたいな笑顔しよった。
「鯉やろな、惜しかったなあ」
 何いうとるんや、二兎を追うたらあかんぜよ、魚なんざなんぼでもあとで釣れるやんか。

 携帯電話鳴っとる、今日来れんかった相棒が釣果の問い合わせや。
「なんや、竿釣っとったんかいな」
 その前に鯉上げたで、今日はボウズちゃうで、ざまあさらせ。
「淀川もええけどな、武庫川にもでかい鯉がうようよおるで」
うようよも居てるかいな、オタマジャクシとちゃうで。
「疑うとるな、ほんまのほんま秘密の場所やねん、大物ぞろぞろやで、一米級の引きはこたえまっせ、アラスカのサーモンもどきやで」
 なんと大袈裟な、アラスカやて四万十川でさえよう行かへん奴が何をほたえよんね。

 喋っとったらさっきのおっちゃんワンカップ持って戻って来よりました。ええとこあるねえ。
「飲みまへんか、一人で飲むより話し相手がおったほうが旨い」
わしも酒は持っとったが有り難く頂戴する。
「おたくええ竿使うてまんなあ、よう来てまんのか」
おべんちゃら言いないな、フィッシングショーでの叩き売りやがな。
「あんなでかい鯉上げたん初めて見ましたで、ええ勉強になりました」
 うまいのう、わし褒められたん初めてやで、乗せられて酒がまわるわ、酔うてしまいそうや。

「つりとものワッペンですな」
わしの帽子を見て言いよった。
「だてや酔郷はんの絵はおもろいですな、わしも坊主倶楽部入ろうか思うてまんね」
 わしは持って来た酒と、あてを全部出しましてん。
「まぁどんどん飲んでんか。他にもおもろいのありますか?」
「まあ、あとはちょぼちょぼというとこですか」
 あかん、森の石松になりそうやで。もう帰って。(茨木市在住)