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いちびり雨のあまご釣り 98/5月号



 二日続きの雨や、毎日少しづつ仕掛を作って用意万端整ったちゅうに、週末になると雨になるのんはほんま、おーじょうしまっせ。
 渓流釣りはお天気悪い方が釣れるちゅうけど、天気がええほうがボウズでも気分ようズッコケられるやおまへんか。
「だから釣れへんのや・・」なんやて、ちゃちゃ入れんと聞いて!

 釣友にどないしょうか電話する。
「主人は餌のイクラ買いに行きましたで(行く気やんけ!)こんな天気やゆうにアホな人ですわ」
「すまんのう・・・」ついこっちも叱られとる気ぃになるわ。
「日曜はいつも家族おっぽらかして自分だけ遊びまくって…」
「旅行にも行かへんのですか」
「なあんも、口ではハワイや香港じゃ言うだけ、カレイが来たとかメバルや、チヌの乗っ込みや言うて休日は家に居ったことありませんねん、海は危ない言うたら今度は渓流や言うて…」

 休みに家に居らさんようにして家庭の平和を乱しとる元凶はわしか?
 わしゃヨメはんの天敵かあ、やばいでこれは…
 やっぱ行くか、行こ行こ、と荷物をまとめ始めたら電話や。
「なんや、雨でビビッとるんか、根性なし、止めるんか」
「しゃあけど豪雨や言うとるで、水量増えて釣りにならんやろ」
「行って見なわからへん」
さよか、家族放っても釣りに行く豪傑や、雨ぐらいでやめるようなタマやないわな。
「解禁以来何もなしはあんただけやで、しっかりしいや」
「なんや偉そうに、あんたかてずーとこけまくっとるやないか」
「解禁日にアマゴ釣ったやろ」
「りりーすサイズやんか、あんなん勘定に入らへんわ」
「悔しかったら一匹でも釣ってからほたえたらどや、したらハミゴせんといたる」
「ハミゴやて…五十のおじんが言う言葉か、アホくさ」
 くそぅ!笑うとる。

 翌朝、やはり雨や、あれだけ力んどった奴が四時になっても迎えに来よらへん。
電話もしてこんから途中で道迷うとんな、何回来たら道覚えんねん。
 四時半頃になってやっと来た。
「まいど、エンジンかからんかったんで遅うなった」
「なんや、バッテリ買い替えたんやないんか、この前は深夜の波止でバッテリがあがって凍死寸前で夜明かしして懲りたんやないんか」
「へっへ、冬の月見もええもんや」
「京都の醍醐寺の裏山へ登ったら、山道の脇にようけ車が捨ててあってのう。中にこの車より程度が良さそうな奴があったで、今度拾いに行くか」
「わしの車はお山のきのこか!」
 名神を京都東で下りて湖西道路に入る、いちびりの雨やなあ…
 奴は雨の中を突っ走るのが愉快なんか大声で歌っとる。
<雨は降る降る、人馬は濡れる、馬上豊かに 美少年>
るっせぇなぁ…寝てられへん、相変わらず音痴は治っとらんの。
「あんたが歌うと美少年も迷惑や山賊の歌に聞こえるでぇ」
「よろしいがな、芋焼酎、美少年一本手に入って持って来たんやで」
「そらごっそうや、着いたらお湯割り作ろ」
「そないしょ」
 安曇川上流、おるもんやね、この大雨の中、四、五人の釣人が石になっとった。
「釣れてまっか」
「釣れるかいや」
つれないお返事…
「まあ、一杯飲んでえな」
 相棒はテルモスのお湯で見ず知らずのおっさん達に焼酎お湯割りを振る舞ってごきげんを伺う。
「家帰っても座る所おまへんがな、頑張って晩飯のおかず釣らな」
「かっわいそうになあー」
 それにしてもおとろしい会話しとるやないけ。
 雨足激しく川面を叩く、手はかじかみ、竿を揺さぶり、とうてい釣りにならん天気や…
 それなのに、なのに、びびび!と来たやんか、わぁ!どないしょ
「来たで!」
「パチもんやで」
 芋焼酎で打ち解けた釣人たちが一斉に羨望と嫉妬と疑惑のまなこに急変身や、
「ほんまかいや・・」
 誰も信用しよらへん。
 おかしいな竿が重たい、根がかりやない、ちょっとへんやで。
 竿先は大きく湾曲しとるが、動かへん、大物かも知れんぞ。
「何やこれ…」
 上がって来たのはでかい石亀。
「よっ、浦島太郎はん」
 集まって来たおっさん達も大笑い、ほっとした表情みえみえ。

いくら食う 亀も萌えぎの
雨衣(あまごろも)

 おい、一句でけたでぇ。
 ちゃんちゃん!