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釣り絶ち男のカムバック 98/6月号




半年も何でか釣りを止めていた友人から電話がおましてん。
「あんじょうしてまっか、わいや」
「あんた、死んだんとちゃうの」
「勝手に殺しなや、どや、今年もアマゴ釣り行っとんねやろ」
「そらなあ、型はこまいが数あがっとうで…」
「人の話やろ、あんたはボーズのままじゃろが」
「あほな、わしかてなあ…」
「見栄はらんでもよろしがな、ほんでの、篭坊温泉行かへんか」
「おどれナメくさっとんな、温泉やて、何とも爺むさいのう」
「湯治とちゃうで、アマゴや」
「おう、釣りなら行くがな」
「釣りのあと温泉で一杯やるんや、ええプランやる、明日六時西宮名塩SAで待ち合わせしょ」
なんでも仕切らな気のすまん奴っちゃの。まああんさんのええようにしてんか。

 休日の名塩SAの混雑ぶりは早朝から狂乱やで、明石大橋が開通したんで交通量がまた増えた。
なんせ行列が道路まで続いとる…えらいとこで待ち合わせしたもんや、まだ朝の六時やで。
 出口で大型車が不法駐車のために後続の大型車が出られなんで糞詰まり状態。四十分過ぎてもビクリとも動かん、喧嘩が始まっとる。
 こらあかん、先に行くことにして、なんとか本線に出ると渋滞七キロ言うとる、あったま来るでえ。
 遅れること二時間、西宮北ICで出て三田市を右折羽東川を見ながらゆっくり上流へ遡ると…
 あれ何じゃ、篭坊温泉の手前まで来ると見たような車が駐車しとるやんか。
川原を眺めるとこれまた見たような胴長短足おやじが竿振っとる。
そっと近寄って声かけてみた。釣れましたか…
「三匹程ですわ…なんじゃこらあんたかいな、遅かったのう」
 あったま来るでえ、人をすっぽかしてからに…
 三千五百円出して釣り券買うとおばちゃんがバケツぶら下げて、
「何処で釣る、ここでよろしいか」なんて言うて、アマゴをドバドバッと空けよってん。嬉しいけどこれやったらつり堀と同じでんな。
「お客さん、なめたらあかんで、ボウズの人かておんねんやさかい」
 ここでボウズやで、わしそなもうろくしてへんで、とは言うものの、昨日の雨で増水しとるのでアタリがないまま時が過ぎ行くのみ。
 おうい、さっきのアマゴちゃん何処行ったん、出といでえな。
 あせるで、やな予感がする、もしもボウズやったら頭丸めなならん、ちょろこい思うたのになあ。
 此処の釣場は自然のままの川なんでつり堀とは違う趣があってなかなかよろし、八百円出せば目の前の篭坊温泉にも入浴でける。
 放流したばかしのアマゴは勝手が違こて餌食う余裕がないんや。
 なんやパニック状態のまんまや。その内に落ち着いたのから食いはじめてまずは一匹上げて、ポウズは免れたで。あとはトントン拍子やがな、わははじゃ、わしをなめんなよ。
 二時間で8匹上げて昼になった。放流魚は弱いね、腰のぴくの中で暴れる音もなく、静かに死を迎えよる、なんまいだぶ…
 相棒が釣りやめて何かやっとんなと思ったら、串に刺したアマゴを塩焼きにしてワンカップと一緒に持って来た、わあ!寒かったんで何よりのこっそうや。
「あっさり昧で旨いで、だんな」
これですっぽかしを帳消しにする気やな、ま、ええがな、腹減ってたし酒も効くわ、ウィー!
知らん間に駐車場は満車、家族連れやカップルが見物しとるわ、わしら猿山の猿の気分やで、ぜに放ってくれたら芸するで。
「おっちゃん釣ったとこ見たいから釣ってえ」こら何言うとんじゃ。
 釣人も増えて焼肉の煙が谷間に充満しよる、ここはピクニックセンターかいな、渓流釣りの雰囲気はのうなってしもた。
「おいおい、あいつ何者や」
彼女同伴の男がわいの島でルアー投げとる、なめた真似さらしよってからに、えぐい奴っちゃ。
「釣れたかね」後ろから声掛けると首を振った。
「釣り券持っとんか」
「リリースしてるから…」
「三千五百円払うてこい」
彼らはあっという間に消えてもた。ええ度胸しとるが。
「ああいうゲリラアングラーはこそ泥と同じや、情けないのう」
まったく、リリースすれば金払わんでええと思っとんか、どあほ。
「息子が大学受験でなあ、なんとか神戸大受かってやれやれや」
そうか、あんたも人の親やね、ほんて釣り絶ちしとったんか。
子供の受験には釣り断ちがえと立派な教訓を残したやんか。
神大やで、釣り馬鹿のとうちゃんたちよ、よう聞いとけよ。
 やつも人の親や、自分の子供が大学受験でそれも阪大一本に賭けてたもんやから一家総ぐるみで応援してたんやて。知らなんだ…
 気持ち分かるけどなあ、息子はえらいプレッシャーやで…
「そかな」
釣り馬鹿おやじは息子に気兼ねなんかせんと、釣りやっとったらええんとちゃうか…
「願掛けは好きなもの絶つもんやろ、茶断ち、釣り断ち、ついでにHも断ちまして」
 まあ、こたいそうなこってすな。
そりゃ勿論、解禁なったばかしで家なんぞおるかいや…
「わしも連れてってくれ」
もうええんか…
「ええ事になってん」
 そうか、明日は篭坊に行く予定や、なら行こか…
 息子がどうなったか聞けると思うか…受かったなら真っ先に言うやろに。わしゃ胸が熱くなったで。
そうか、おもいっきり釣りをやったらええ、一番好きやったものまで半年絶ったんやもの、息子にだって通じとるで…。