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波止とべっぴんはん 98/7月号 ![]() 休日の武庫川一文字、広ろうて長い波止は家族連れやグループで魚釣り公園なみの混雑でんが。 普段は鳥の糞だらけの突堤の上にシートを花壇のように広げて、パパさん大健闘のご一家や、学生の合コン焼肉パーティやら釣クラブの例会などが、どばーっと並んでお花見会場のような賑わいや。 春爛漫、なのに世間は不景気のどつぼにはまったままやんけ。倒産、社長の夜逃げ、給料不払い、勤続三十年社員の表彰でもらったのは解雇通知やった、なんて。 それにしても不景気の原因は、おまえが居るからや、と中高年は目の敵にされとうが、吹けば飛ぶよな零細企業を、盆正月も働いて飯が食えるようにしたったんは 誰のお蔭と思うとんじゃい。 世を拗ね、人を避け、雑踏を離れたくなるがな、せめて一人静かに糸を垂れて、俺の人生は何やったんかと、束の間の考える時間が欲しぅなるがな。 なのにここの賑わいは何んや。 わてらのようなこ汚いおっさんは、何しに来たん、と言われそうで肩身が狭いとこやのう。 「きぇーぃ!」 あ、びっくりしたぁ。 とてつもない奇声あげて環境を乱しとるのは、手拭い鉢巻きの何とかクラブのおっさん達や。 みんなサビキかウキ釣りをやっとんのに、さかりのついたゴリラみたいな声出して投釣りなんかすなよ、ちょっとでも遠くへ飛ばそといきがるのは勝手やけどなぁ。 周りの人は、そのたびにびっくりこかなならんやんけ、それも一人二人なら我慢するけど、団体で来とんねんで、かなんなあ。 「どひぁあ!」「あ、ちょょう!」 なんてカンフー調おやじ。 「うりゃ!」とか「ガッツ!」なんてコミック調にいさん。 「こりゃあ!」とか「死ね!」と言うヤーサン調も居とって、はた迷惑おびただしいでんなぁ。 「場所変えようか」わしらも眉ひそめて言うとったら、一陣の涼風とともに「ここいいですかぁ」と甘い声が割り込んで来ましてん… そろりと目をあげるとジーパンに包まれた長い脚、きゅっと締まった小振りのヒップ、Tシャツの胸がぷるるんのべっぴんちゃんやおまへんか。 わてら鼻の下がでろりんちょと長なつてごっくんと唾飲み込んだ。「どぞどぞ」と場所つめてやって、もう釣りはどっちゃでもようなってもうた。 「どっからきたん」 「えー豊中」 「一人でかいな」 「弟とその友達にまぜてもろてん」 釣友はナンパ仕掛けるのは早いがな。 「ここ何釣れるん」 何て、知らんと来とんのかいな。 「ここわやな、お魚がよう釣れるんよ」「あははぁ・・」 ジーパンのポケットからレモンの飴出して「挨拶がわりよ」なんて気がきく子やんか。 どもども、わしゃ口下手やさかいじっとウキを見てるふりして、形のええバストに目が行ってもうてにんまりしてる間に、友はクーラーから缶ビール出してすすめて高得点ゲットしょった。 しかし波止の上で若い娘はんとビール片手に座っとると、年を忘れて血がさわぐのう… 「ここにはトイレないのん」 娘っ子が釣友に尋ねちょる。 「そこ」波かぶりしかないで。 「あのぅ…」 「わしが抱っこしてシート、ト、ト言うたるからここでしぃ」 「女の人はパンパースをはいて来なあかんで」バシッ!バシッ! 「一番ええ方法はやな、そこにカテーテル差込んでおけばやな」 おいおい… 「穴は三つあるけどどれやろ」 「おっちゃん海おとすよ」 こんな話になると雄弁になるのはなんでや。しゃあけほんまは友人はメチャ親切おじさんやから、渡船のトイレを借りたらええ、と教えよった。 「××渡船でーす戻られる方いませんかー」渡船の船長がハンドマイクで叫びながら波止に現れると娘っ子が手を振り、友は船長に頼んだるわ、と一緒に行きよった。ふと気付くと船が出て行くやんか。 「おーい待て待て」と出て行く船に向かって釣友が叫んどる。 「トイレ借りに行った子がまだ戻ってへんで」 「えっまだでっか」 「よう見とかんかい」 波止と船の間で怒鳴りあいしとる。 ところがや、トイレの中から返事がないよ…長過ぎる… 渡船の船長はんも困った顔してトイレの前でうろうろしとる。 扉を開けて確認して良いもんかどうか悩んでる様子。 こらえらいこっちゃがな。 「すんませーん」緊張した空気をポン!と割って、娘っ子が笑顔いっぱいで出てきた。 船長は何も言わずに操舵室へ戻り、波止の野次馬はニヤニヤしながら解散や。 「なんやでかい方かいな」 でこうても、ちいそうても女性には難儀やなぁ。 「きぇーぃ!」 またや、あのおっさん投げとるがな。 初夏の日差し眩しい一文字でした。 |