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夜釣りならベイエリア 98/8月号


夏や、夏はわが町も盆踊りや言うて、やかましゅうてかなわん。
 エンヤコラセーェ ドッコイセ
 普段は道端の立ち話に情熱を傾けとるうちのヨメも、町内会のお揃いのゆかたを着て、明るい内から厚化粧の上塗りやっとる。
「とーちゃんも来るねんで」なんて抜かして、おい晩飯はどないなっとんね、乗せるだけのコンビニ弁当やないやろな。
 誰が行くかい、おばんの巨大なおいどの行列見たらおかしなるわ。
 これから夜釣りに行くんじゃ。夏は何つうたかて夜釣りが一番やこれに勝る夏の夜の過ごし方はおまへんで。
 車で釣座に横付けでける波止は楽でよろしいな。まさに家からポイントツーポイントでんが。
 阪神高速湾岸線を助松で出まんね、その先まで行くと料金よけい取られまっからのう。
 真っ直ぐ走ると左側に大きな釣りえさスーパーがあって弟子の釣友とここで待ち合わせ、撒きエビや刺し餌を買うて、さて何処にすっか、としばし相談や。
 その間にも夕立の去った夏の空は刻々と赤みを増して、千切れ雲がピンク色に染まる頃には場所も決まって夜釣りの用意を始める。 大阪湾をぐるりと灯のネックレスが浮きだすと、燃え立つような夕焼け雲がおおって、鳥の群れが呼び合いながら家路をいそぐ。
 まさに少年の日に見た原風景そのままがここにある。
 のんびりしてられへん、仕掛作り急がな暗くなるがな。
「太刀魚が来とるらしいで」
ほんまかいや、波止のあちこちで歓声があがっとうが。
 隣のおっさんもベルトサイズを上げよった、おーい、撒き餌や、逃げられんように撒いといてくれえ、早うせんか、あほ。
 太刀魚は一瞬が勝負やねん、ものも言われへん、くる時は一投ごとにかかるから周囲はもう戦争。
 それがわしらの所には全然来んやんけ、どないなっとんじゃ。
 もうボーズの大将なんて言わせへんで、なんてさっき言うとったんが嘘になるやんか。撒いた餌は人のとこへ流れてしもて、あちらさんは入れ食いや。あわわ言うてる間に食いは止まってもうた。
「餌まきする場所考えて放らんかい、あほう」
「なら自分でせえ」
「お前なあ、それが師匠のわたしに対する言葉遣いか」
「師匠は弟子をいたわるもんや、丁稚やないで」
 口の達者な弟子持つと苦労が絶えませんな。
 ひまになるとラーメン屋の屋台に出動や、ちょっと涼しくなった体にはこれがうまいんや。ただしまずいのもあるから評判聞いてからにしいや。
 酒もビールもあるのでちょっとした立ち飲み屋の雰囲気、おっちゃんに何処が釣れとるか情報も仕込めるが、商売熱心であまり当てにならんで。酒がよう売れる所は釣れてへんとこやろ。
 釣座に戻ると 暗い海面にさざなみが立っとる、小魚が何かに追われて逃げているようや、なんやボラか。
 突然、竿がしなった、えっ何やでかそうや、おいおいこら大きいで、タモは何処置いた、忘れたやて、弟子、この頃怠け癖がついたんちゃうか。
 おっ、ハネや、でかいぞ。
 おとなしう寄ってきた魚影が突然暴れだす、エラ洗いや、ばしゃばしゃとあちらさんも必死や。
 間合いを見て、一気に引き抜く。ドテ!と岸に上げられたハネは往生際がええ、好きにしい、とばかり堂々としとる。60cmにちと足らんかな。
「イェイ!」よう上げたもんや。
弟子にVサインを送る。
「えっ、リリースするん、もったいな」
「もうちっと大きゅうなって帰って来いや」
余裕見せな、師匠じゃけんのう。
 なんや、ヨメから電話や。
「今夜帰ってこんの、どないすんの、玄関の鍵かけまっせ」
「朝までやるでえ」
「とか言うて、女のマンションにいてんのやないやろね」
「おい、お前と一緒やて言うてくれや」
弟子に携帯を渡す。
「いやや」
「なんでえな冷たいやんけ、頼むさかい」
「知りまへんで、今からおなごのマンション行くんとちゃうの」
「何あほな事言うとんね、あーあしもたことしたがな」
「何がや」
「唯一の証拠をリリースしてもうたがな」
 だんさん、夜釣りはアリバイ証明が必要でっせ。(茨木市在住)