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波止のボーズ族 98/12月号


                           ●絵と文 天野史彦

コンビニで買うたつり新聞に「高槻市の××さん、北港新波止でサンバソウ五枚、チヌ八枚」
 ほんまかいや、わいなんぞすぐ信じるから、よっしゃ次はここや、と、簡単に乗せられまんね。
 しゃあけ、あれ不動産屋のガラス戸に貼ったぁる招き札と同じでっせ、人寄せやがな。
 昨日爆釣した場所が、今日も釣れるなら、わしこんな苦労はしてへんわなぁ…
 一緒に行った人がわっはっは、の馬鹿釣り、わしはボーズ、なんてようあることやんか。
 知らん人は、釣りは釣ってなんぼや、釣れへなんだらハンケチ噛んでトホホ…なんて言うとりゃええんじゃ、つうけど。
 家帰って「つりのとも」読んでなんかしら次は見とれよ、と勇気が湧いてくれば、忘れられるがな。
 タイガースのファンなら諦めるのに慣れとるから、放っといても立ち直りは早いでぇ。
 釣りかて一緒や、パチンコかてそうや、次があるがな。
 明日は明日の風が吹く…
 タラの丘でスカーレットが泣きながら叫んだように。
「レット イット ビィ!」
 自然体で行こう、とビートルズかてそない歌うとる。たしかこの曲が最後やったな。

 夜中に目が覚めた。
 午前三時、今から起きて行くと一番船に間に合うなぁ…
 ガバ!っと飛び起きる、手早く押入れの道具をザックに放り込んで、冷凍庫の氷をクーラーに移し水筒にお茶を入れて準備完了。
 真夜中の道は気持ちがええ、渡船屋まで僅か三十五分で到着や。
 客は三人、蟹買うておにぎりも仕入れて船に乗る。
 みんな新波止で下りる、やっぱ彼らもあの招き札に釣られて来たんやな、あほはわしだけやなかった、と気が楽になったで。
 別の渡船屋の船がなんと団体さんを運んできて、急に賑やかになってしもた。あほが多いのう。
 暗い波止の上で釣座の獲得競争が始まった。走ると滑るで、危ないよと言うてるのに、誰かこけとるが、あほの上塗りやっとるがな。
 蟹の餌をそーっと壁に沿って落とし込んでおったら、おっちゃんが息切らせてやって来て、
「竿流れてへんか」
「どないしましたん」
「置き竿持ってかれてもうたわ、ハネがかかったんやと思うけど」
「暗いし、何んも見えまへんで」
「あれ、高い竿やねん」
 知るかいや、欲かいて何本も置竿なんぞするからや。
 しばらく行くと、竿も出さんと若い兄ちゃんがあぐらかいて座っとりまんね。
「どないしゃあはりましてん」
「眼鏡こわしてもうた」
 え、なんで眼鏡を、
「こけて、眼鏡踏んでもうてん」
 あらら、さっきこけたあほがいてたけど、あんたやったん、そら不自由やなぁ、気持ち分かるで。
「ついてねぇよ」
 兄ちゃんは、潰れたタバコ取り出して大きなため息つきはった。
「ほんで、帰るんか」
「目が見えんでも釣りはでける」
 そやそや、その意気で頑張りや。
 東の空が明るくなって来たが、まだ何の当たりもなしや。
 見回しても、誰の竿も曲がってへん、そのくせ波止の先では小魚がバシャバシャ暴れとる。ハネが来とるんかいな。
「あったあった」
 さっき、竿を流したおっちゃんが満面に笑みをたたえて戻って来よった。
「赤灯台の先まで流されとった」
「今日一番の大物でしたな」
「しやんか、これええ竿やねん」
「よろしおましたなぁ」
 な、見てみなはれ、誰かて何も釣れてへんのに、結構楽しんどる。
今日もええ天気になりそうや。(茨木市在住)