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清水みなとで年忘れ 99/1月号
「清水港の名物は・・・」歌が出ますね、まだ明けやらぬ駿河湾を船は三保の松原沖目指して波を切って進んどりやす。 総勢十二名の貸切り船ですわ。 東京の同業者が忘年釣り大会を催しまして、大阪に釣り馬鹿が居ったなと誘うてくれたんですわ。 渡りに船、猫にまたたびやな、二つ返事で馳せ参じた訳でんが。 正月用にでかい鯛を、といじましく皆んな狙うとるが、そううまい具合に行きますやろか・・・ 東京の連中は服装だけ見てると何処の磯釣り師かいな、ちゅうような、ど派手なウインドブレーカーで決めて颯爽としてまんが。 関西代表のわては、ぽてぽてと着膨れて、手拭いほっかむり、釜が崎で焚き火あたっとる労務者のおっさんそのまんまや。 「その恰好でよく新幹線に乗せてくれましたね」やて、ほっとけ。 前夜、人を肴にして笑い転げとった一行は、鯨飲馬食の報いでさっぱり元気なく、わてだけが歌など歌うて張り切ってまんね。 お茶の香りと、男伊達・・・ 見たか、聞いたかあの啖呵・・ 冷たい飛沫を浴びながら、遠く三保の松原を望みその真上に富士山とくれば、ずばり銭湯の絵や。 「オエー!」なんや、もうご開帳かいな、ちょっと早いのう。 釣る前からダウン二人、年末やちゅうのに結構、何隻も釣り舟が集まっとる、借金取りから逃げて来たおっさんも居るやろなぁ。 釣具も餌も船頭仕立て、活エビ、これ人が食っても旨いで、なんちゅうて「エビの踊りだ、口の中で暴れとる、魚に食わすの勿体ないわい」と口に放り込むアホもいる。 恰好ばかしいっちょ前でも船釣りは初めて、という東京の旦那がたは注文が多いわ。写真を写せだの、鈎が引っ掛かっただのと言うて面倒見きれん、かなわんのう。 誰かが手のひらサイズを上げて小娘みたいにキャアキャア騒いで釣果続々、と言いたいが、釣れると言うより引っ掛かるのは外道と餌取りばかりやがな。ま、えっか。小魚が食べる音聞いて、でかいのが出勤して来よんで、と余裕見せてんねんけど少し不安なってきた。 船長はこれは素人集団やな、と焦り出して、試しに自分も始めたら簡単に釣れるやんか、なんや皆しっかりせんかい、とはっぱかけるが、わしにもさっぱりや。 「移動するじゃん、上げて」 船長の一声、しぶしぶ糸を上げ始めたら、なんや重たい。 なんじゃこれ、動きは無いし。 「海草釣ったな、さっさと手繰れ」 エンジンがかかり、走り出してもまだ引っ掛かっとる、おかしいでヒラヒラと黒い影が見えて来た。 「船長、停めて!」 何や何や、と皆の視線を意識しながら上げると、でかいヒラメ。 すっげぇ大物や、どさっと甲板に投げ出して思わず万歳三唱や。 こうなれば何でも釣ったるで、と気合が入りましてな、それからは全員に来るわ来るわ、がっはっはの大漁になりまして、わてもまた鯛を三枚、東京の旦那方も大満足、船長さんのご努力有り難とさんや、全員で分けてもお正月用の分は確保しましたで。 こうなると自慢したくなるもんで、年末ご多忙中の釣友は誰やろと考えていつもホラ話を吹きよる食品会社の社長殿にお邪魔電話したってん。 「おーい、なんぼ釣ったと思う、聞いて驚くな、積年の恨みを今晴らしたったど」 彼の歯ぎしりバーリバリや。 釣り宿の一階は寿司屋なので、釣ったばかしの鯛の刺身、ヒラメは薄造りにして、酒はご当地銘酒「磯自慢」とくりゃあ旨ぇのなんのって、飲みねぇ食いねぇ、流石に清水まで出張った甲斐ありましたわ。ま、今年の竿納め、賑やかに幕となりました。(茨木市在住) |