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雪はこんこん、バスもこん 99/2月号


                           ●絵と文 天野史彦

 午前6時、雪の舞う北小松や。
 ほの暗い湖岸の雪はすでに30cmを越えて、胴長スネ短のおいやんにはこの深さ、玉まで届きまっせ。
 漁港近くの部落で雪掻きしてたおっちゃんに
「大阪から来たてか、この寒いのにもの好きやなぁ」と笑われて、
「この頃はジャコもおらんで」
としっかり言われてもうた。
 しゃあけ朝早くから誰もおらんやろと思ったら、なんと狭い駐車場には車が溢れて路上にまで並んどるやん。
 わしぁ予想が狂うて、バリバリに凍った道でこけてタックルケースをぶちまけて、でぼちん擦りむいてもうた。
 北小松漁港に押しかけたもの好きは、端から数えるともう24名もおるがな。
 小さな港はぐるりと3mおきに釣人が雪ダルマになって並んどんねん。
「寒い、寒い」と言いながら足踏みして雪を蹴飛ばして絶えず体をいごかしとらんと凍えそうな寒さでんね。
 つい2、3年前までは、漁港の底に敷きつめたようにバスが集まっとったが、今日びそんなアホバスはいてへんが。
「雄琴や堅田も引き払うてトンズラかましておれへん言うとったで」
「そう言えば、よけいあったソープランドもどこへトンズラしてんやろか」
 なんちゅうてる間も雪はひどなり横なぐりの降雪で、半分やけっぱちになっとる釣人は、申し合わせたように常きっちゃんや。でかいオモリブン回してボッチャン!ボッチャン!と大きな音たてて放り込みよるわ。
 関東ではええしの男の子をボッチャンという、関西ではボンでんな。
「禿げたのがボンと呼ばれて振り返り」
なんて昔の川柳がおましたのう。
 釣友のボンはお他人さんの釣果探りに見回りに行きよった。どこも釣れんのいっしょや思うけど…
 その内に嬉しそうな顔して一升瓶抱えて信楽の狸みたいになって戻って来たがな。いいタイミングや「釣れなんだら呑む」気がきくボンですこと。
 午前中は50人近くおった釣人も、諦めてお昼頃には数人でんが。
 これからやで、と鍋に雪を放り込んでコンロにかけてゆで小豆と餅入れてぜんざいが完成、酒を呑みながらぜんざいを頂くというお正月風ミスマッチが妙に寒さを忘れさせまんが。
 天気も急速に回復、気温も上がりはじめると一升瓶は瞬く間に減り、冷酒の遅い効きが現れて、いい心持ちや。
 ボンは釣りを止めてしもて見境なく釣人を捕まえては絡んどる。いやな酔っぱらいと思われたんか居残り客も帰り始めて周りは誰もおらんようになってしもた。
「貸切りやで」ボンは喜んどるが肝心のバスは、どこにいてんね。
 わしゃ根がかりでルアー取られて、どたまきて雪の上でひっくり返って昼寝や、何しに来たんか分からんわ。
「駅前の食堂で呑み直ししょうや」
 酔った勢いはアホおやじの衰えた体力でも盛り返しよる、わしら意気揚々と場所替えして駅前食堂へと移動。
 悪いことに山からおばはんの集団が下山してきて合流したんが運の尽き、いっき、いっきの酒池肉林の合コンになってもうたんや。
「あんたら歳なんぼやねん」
しわくちゃババにつめ寄られて、ボンも年甲斐なくテレまくっとるがな。
 この調子で新快速に乗ったもんやから、車内でも宴会の続きや。京都着いてババさん部隊から開放されたんやが、わてら疲労こんぱい、つい寝込んでしまいましてん。
 なんかええ夢見とったら揺り起こされて、窓の外は暗いがな。
 あれ?さっきは明るかったのにとしばしきょとんと見回すと車内は閑散、電車は快調に走っとる。
 おいどこやねん、知らんがな。と言うてる時、車内アナウンス。
「次は終点姫路、次は姫路、この列車は次まで」
 あのぅ…わし高槻で下りる筈やったんやけど…(茨木市在住)