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波止はゴミ捨て天国 99/3月号


                           ●絵と文 天野史彦

 今、西宮浜の防潮堤を首からクーラー、背中にザック、両手に竿とバケツ下げて歩いてまんねん。
 しゃあけ長い波止でんな、背中から六甲おろしや、スタンドで歌えば景気はええけど、まともに吹かれると耳たぼ凍傷になりまっせ。
「北風吹き抜く、寒い朝も・・」
なんて吉永小百合の歌あったのう。
 わし学部は違うたがこれでも同じ早稲田におってんで。ま、あちらさんは年とっても大女優、わしゃど貧欠の釣人、顔の造りでどえりゃー差がつくもんやし。
 闇の中に白々と続く長い波止、端の白灯台の近くまで行こかいなと思てんけど、途中で一休みせな顎出そうや。御堂筋を梅田から難波まで歩くつもりで頑張っても、何せコンパス短いんでどもならん。
 さすがに早朝なので人が少ない。冷たい風にゴミが吹き上がって顔にベチャ!鼻が低いとお気軽にゴミも顔面着陸を試みやがんねん。
 この波止はごみの山を蹴飛ばして歩かな進めんのよ、大阪湾周辺の波止では汚さでトップやろな。
 その上、海の際から3、4m幅にゴミの帯がえんえんと続いとんのやで、釣人はゴミばかり釣り上げてひいこら言うとるが。
 細かい描写はしとうない、とにかく汚い、腹がたつ、釣客だけのゴミやないで。空き缶や空き瓶に混じって犬の糞や布団や電化製品、それに古い家具まで捨ててあるんやから、犯人は釣客の単独犯行とは言えんわなぁ。
 波止は大ゴミの捨て場かいな。
 日が上がるにつれ、プーンと匂う生ゴミの匂い、なんせはんぱな量やないから風の向きで窒息しそうになるで。
 そのゴミが六甲おろしで海へ吹き飛ばされて海までゴミの天国や。漁協や市長さん責めてもあかんで。
 ワールドカップの会場でゴミまで集めて褒められた日本人サポーターと同じ民族なら、フランスでやれたことが、んで自分の国ではでけへんのや、情けないのう。
 やっと遅れて来た釣友と合流したので、汚い波止は諦めて湾岸線の橋の下に移動した。
 ここならゴミも少ない、ヨットハーバーまで石畳の護岸が長く続いており、何人かの釣人が竿を出しとおる。
「釣れてまっか」
 兄ちゃんのバケツの中覗くと、空っぽ、エヘヘと照れ笑い。
「餌忘れてきてん」
 なんや鈎にワームがついとる。
「ま、慌てんと座りいな」
 友はザックから角ビン出しよった。なんや朝っぱらから飲む気なんか、こらぁ長い一日になるで。
 石畳の上は遊歩道で近所の住人が散歩がてら、手すりにもたれて見物しとる。
 わしらを猿山の猿みたいに見下ろして、声かけて来よんね。
 おーい、エサ投げんなよ。
 焼肉の缶詰とほたての缶詰を開けて酒盛りの始まりや。見物人は見ててもしゃあないのに、わざわざチャリ停めて眺めとるがな。
「おっさん、一緒に飲むけ」
 時々大きな水音がして魚が跳ねよる。ゴミの波止よりこっちの方が魚影は濃そうやがコマイな。
「おっちゃんら釣れたか」
小学生の三人組がルアーのタックル担いで来よった。
「まだ竿出してへんよ」
「気楽でええなぁ」
 なんやて、子供に言われとうないわ、ませたガキやな。
「ルワーで何釣る気やねん」
「ハネや」三人が口を揃えた。
「今頃来ても、もうおらんやろ」
「一匹釣ったよ」
 確かにバケツの中で動いとる。
「恐れ入りやの鬼子母神ちゅうの」
「お酒なん飲んでたら釣れへんで」
「あほう、ほっといてくれ」
 子供にまで説教されてもうた。
 あっという間に角ビンは空になって朝酒は回りが早いから釣友は鼾かいて寝てしもた。
 ほんま、気楽やのう。(茨木市在住)