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アマゴもリストラ時代 99/5月号


                           ●絵と文 天野史彦

いよいよ渓流解禁でんな。
 今年から仲間も増えましてな、賑やかになりそうなんやけど…仲間ちゅうても繰上げ定年者とかリストラされたおっさんなどが混っとうから、いささか会話がしんきくそうなりまんねん。
「どないでっか」
「あかん!」
「あかんかぁ…」
「釣りでも行かな、家に居ったらおかんにたこ釣られまんが」
ほんでお仲間入りかいな、難儀なこっちゃで。

 解禁日過ぎた休日、この仲間と一緒に夜明けの久多川に到着。
「わぁお、雪あるやん」
「京都言うても北は雪国やもの」
「熊が出んやろな」「冬眠中や」
「熊はええな、寒い時は働らかんでええし、熊になって冬眠したいわ」
「心配せえでもじきに永眠でける」
「誰がや」

 氷のように冷たい流れに立ち込みで釣ってる先客に話しかける。
「おっちゃん冷とうないか」
「そら冷たいで」
ややこしい奴が来たと感じた釣人は半分逃げ腰で竿上げた。
「しょんべんが出来へんやろ、どないしてやんね」
「そん時は脱ぎまんね…」
「ほりゃ大仕事でんな、今便利なもんありまっせ、紙おむつよろしいで、ずれんように貼るなぁ、コツがおまんね、ここんとこを…」
おっちゃんは、ウエーダーの渦を残しながら移動して行きよった。

 海釣りしかやったことない、と言う新人は、仕掛けがごつい。なんと3号の道糸まいたリールつけて磯竿を2本並べとるがな。
「何本も置き竿したかてあまごは釣れへんで、なに釣る気やねん」
「しゃあけ1匹釣れたで」
「そんなん、あまごの交通事故みたいなもんや、歩かなあかんで」
しぶしぶ立ち上がると大きなクーラー持って、ザックとパイプ椅子担いで、竿と餌の袋さげてよろめいとんね、えらい大荷物やんけ、夜逃げでも出来まんな…

 河原の朝霧が流れて、釣人の影が墨絵のように点々と浮かぶ。
「おーい、集金や、入漁料払え」
静かな雰囲気をぶち壊す蛮声、声の主が、枯れた葦を踏みしだいて現れた。
「なんや自分、集金代行かいな」
「全員のわてが立替えましたんや払うてんか」
道理で取り立てが厳しいわい。

 雪を割ってふきのとうが顔を出して「春や」と囁いてる。
 これを油いためして味噌と味醂加えると酒のあてにええんや。
 この味噌を味醂で練ったものは渓流釣りの必需品、魚のはらわた抜いてビニール袋に入れとけば氷無しで保存が出来る。

 何処からか焼肉の匂いがただようとるなと思ったら、若いカップルがテーブルを川岸に置いて焼肉でワインなんぞお召し上がりでんが、参ったな。
 アウトドア用品の勢ぞろいや。わてには目もくれずにくどいてはんね、ようやるのう兄ちゃん。
 頭の中は、ホテルまでの手順考えるのに手一杯て感じやった。

「めしやでぇ、早うこんか」
あちこちの藪から仲間が出て来た、めしより先に石の上に酒が並ぶ、焼肉カップルと比べたらホームレスの集いそのまんまでんな。
「今年のあまごは小こいなぁ」
「あまごの定年は何年やねん」
また話がそこに来るか、定年ちゅう言い方ないやろ。
「若いあまごはリリースせな」
「やはり食われるのは定年近いのんとリストラされた奴やねんな」
とほほ、暗いのう…
(茨木市在住)