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明石で夜あかし
●絵と文 天野史彦 釣りの帰りに車を高速の外壁にちょっとこすりつけてのう、ほんちょっとやのに、車の側面全部取り替えて、修理代六十五万取られたもんやからオカン怒って「車にはもう乗らんといて、免許証は返しといで、この車より程度の良い中古車が買えるがなアホ!」と毎日言われとんね。 そんなある日、明石の銀行で外勤しとる友人から電話おまして 「明石港の白灯波止でちょっと休んどったらな、チャリンコで来たご老人が三十分ほどでチヌ二匹上げよったで、あそこはようけ釣れるとこやてなぁ」 ほんまかいや、落ち込んでたとこやから嬉しかりけるよ。 仕事中に波止でさぼっとるんかと厭味言うのを忘れたがな。 「釣れへん時は、わては魚の棚へ行ってな、生きの良い鯛を買うて帰るんや、家のブス万歳三唱やで」 ブスやて、旦那はんかてええ勝負してはるよ、負けてへんわ。 成るほど、明石名物うおんだな(魚の棚)なら瀬戸内の魚や海産物の宝庫や、知恵着けさせてもろておおきに。 JRで明石駅に下りると相棒のうえちゃんが改札口で笑うとる。 「ええワイン手に入ってんでぇ」 クーラー叩いてにんまりしとるが、見覚えのあるそのクーラー、魚を入れたんは、何年前やったやろ。 なのに、チヌと聞いてワイン抱えて駆けつけて来る気持ち、いじらしゅうてのう、涙出たわ。 早速、うおんだな市場で餌を仕入れる、新鮮で安い、人間様のものおすそわけ、ちょっと勿体ないけど生きの良いえびとあじ。 明石蛸、明石鯛、なんとまあ、明石海峡の潮流に洗われる魚種の豊富な事、大阪市内の半値近いやん、釣りやめて買い物して帰ったほうがオカン喜ぶで。 前を釣り師のグループが歩いていたので、後をつける。 地元のおっさんなら穴場知っとうやろから、これで釣り場探す手間がはぶけると、うえちゃんと顔見合わせて、うっふっふ。 おっさん団体、急に足が早くなった。気付かれたか……。 と思ったら、フェリー乗り場手前の交差点の東にある「タコ焼き屋」に入って行くやんか。 「おいおい、チミタチ何処行くの」 うえちゃんが言うには、この店が「たまご焼き」と呼ぶ、明石のタコ焼きの元祖なんやて。 なのに店は狭く、屋根が傾いたような小屋で(失礼)美人の店員もおらんのに、ほぼ満席状態ですねん。 ふぁふぁの豆腐みたいなタコ焼きをだし汁につけて頂く、美味。 おっさん団体はビール効果で足がもつれてよたよたやんけ。 着いたところは市役所裏にある手すりのついた魚釣り公園。 なんや、このおっさん恰好はいっちょ前やのに皆な素人かいな、磯釣り師まがいやで、この頃は服装で釣り師の判断でけまへんな。 目の前には明石大橋や、高い櫓が二本、淡路島側と明石側の急流を跨いで立っている。 なつかしいね、あの櫓の基礎の海底掘削機械に、センサーを取り付けて掘削状況を視認する器械を公団に売りつけたのは俺やで。 信じへんやろなあ。 釣り師グループはサビキを始めよった。小あじが回遊している、あとはガシラ、こものばかりや。 日が落ちてからの大橋は三色の電飾で光の町と島を結ぶ虹の橋。 そのスケールには圧倒される。 赤灯台の下に移動しても魚さん一家は全員お出掛けで留守みたい。 岩屋−明石間の最終のフェリーが港へ戻って来た。 デッキに並んだ乗客が次々に「釣れてまっか」と聞きよんね。愛想よう笑うて答えたい気持ちは山ほどおまんねん。 しかし、わしゃもう八時間近く辛抱の鬼と化して立っとんねんで。 なんで同じ返事せなあかんのや。 「うるへえ!だっとれ!あほ!」のんびりした声が返って来た。 「めげんと、がんばりやー・・・」 (茨木市在住) |