新・釣具の知識 11
時代到来の予感 生分解性釣糸

釣りがブームになり出したことは、釣業界にとっては喜ばしいこと。
その反面釣り公害も目立っている。
環境に配慮した釣具を考える。そんな時代の到来か!?


協 力/東 レ(株)中島康之
聞き手/編集部 永田 淳


 釣りをしていて、根ズレ、ハエズレ、高切れ、ラインブレイクといった糸切れは誰にでもあること。切れたその糸がどうなっているかと言えば、水中で未来永劫残ることになる。
 ルアーを投げていて、切れたラインが絡んで上がってくるなんてことは一日に2、3回は確実に、ある。以前糸に絡まり魚をバラシたこともある。
 えいクソ、なんとかならんのか!という釣人のニーズに応えてなのかどうか、東レ株式会社から自然界でバクテリアに分解される釣糸が発売された。
 釣糸の概念を変えてくれるかも知れないこの糸「フィールドメイト」、発売から半年が過ぎたこの時期に発売元の東レを訪ねてみた。
 インタビューに応じてくださったのは産業資材事業部の中島康之さん。



◇生分解性釣糸とは?

<編>…何故この釣糸を企画されたのか、その経緯を教えてください。

中 島…やはり環境問題に注目して開発しました。従来のナイロン、フロロ、PEラインですとどうしても自然環境の中では残ってしまいます。

<編>…永久に残るのですか?

中 島…分解されないので、そのままの形で残留するのです。水鳥や自然界への影響は無視できないという考えのもとこの釣糸を開発しました。

<編>…ではいつ頃から開発されてきたのですか?

中 島…5〜6年前から構想がありました。研究やテストで今年の3月から発売しています。

<編>…何で出来ているのでしょう?

中 島…生分解プラスチック、生分解性ポリマーです。有名なところでは、歯ブラシなんかに使われていますね。

<編>…素材は?

中 島…脂肪族ポリエステルです。

<編>…どう言った特徴を持つ物質なのですか?

中 島…分子量が多い、いわゆる高分子化合物という物質です。これが微生物に分解されるのです。

<編>…分解されると言うと?

中 島…分子間のつながりが微生物に食べられるのです。そして水と二酸化炭素に消化されてしまいます。こうすることによって、高分子の物が低分子化されるのです。これが生分解のメカニズムです。

<編>…詳しく教えてください。

中 島…2段階で分解されて自然界に還元されます。まずこの「フィールドメイト」に使われている生分解性ポリマーは先ほど申したように脂肪族ポリエステルの高分子化合物からなっています。
これが水中や土中の微生物が持つ加水分解酵素という酵素によって分子間の鎖(結合)を切られます。そうすると分子の密度が疎らになって低分子となり、微生物に取り込まれるのです。
こうして微生物の体内に取り込まれて、10〜15%は微生物の栄養となり、残りは水と炭酸ガスになって排出されます。
<編>…ウーンなるほど、解ったような気がします。

◇釣糸としては?
<編>…難しい話が続きましたが、釣人が最も関心のある釣糸としての特性を聞いていきたいと思います。
まずこのフィールドメイトの特性を教えてください。

中 島…一言で言うと、やはり釣糸としてのレベルはまだまだ低いのが現状です。

<編>…言い難いことかと思いますが、具体的にどういったところが低いのでしょうか?

中 島…まず太くなると言うことです。大体各社とも号数と強力は比例します。3号の糸と言えば強力は12ポンドといった具合です。
しかし、フィールドメイトは従来のナイロンの70%の強力しかありません。12ポンドの強力を持つには5号の太さが必要になってきます。
ですからこのフィールドメイトには二通りの表示、号数と強力表示がしてあります。

<編>…なるほど、12ポンドと書いてあるから3号の太さだと思ったら間違うということですね。

中 島…伸度も大きくなります。30%ぐらい伸びます。
この他、糸ヨレが大きいということがあります。
先日河口湖でフィールドメイトだけを使ったバスフィッシング大会を行い、その際のアンケートでもこの答が一番多かったのです。

<編>…何故伸度が大きくなったり、糸ヨレしやすくなるのでしょう?

中 島…おそらく素材の問題だと思います。現在これらの改善を研究中です。

<編>…具体的にはどういったことをされているのですか?

中 島…それは…言えません。

<編>…ハハハ、私らどこに行ってもその言葉を言われますね。

◇実際の使用に際して
<編>…では実際に使う上での注意点などを聞いてみたいと思います。
この糸を使う時、釣人の一番の心配はやはりやたらめったら分解してしまうのではないか?ということだと思います。空気中では分解しないのでしょうか?

中 島…乱暴な言い方をすれば空気中には微生物はいないので、分解する恐れはありません。
たとえいたとしてもごく小量ですので、まず大丈夫です。

<編>…保存方法なのですが、使った後にそのまま置いておくとやはりいけないのでしょうか?

中 島…水道水で洗うと大丈夫です。

<編>…意地悪な質問ですが、水道水内には微生物は?

中 島…いません。

<編>…洗浄方法は?

中 島…スプールの上から水をかけるだけで結構です。いちいち糸を全部出して洗うと言うのはいかにも非現実的ですからね。

<編>…微生物さえいなければ大丈夫ということですね。
この方法でどのくらいもつのですか?

中 島…一般的な使い方、たとえば月に2〜3回釣行する程度でしたら1年は十分に持ちます。

<編>…ナイロンは紫外線や湿気、ホコリなどによって使わなくても劣化しますが、この糸ではどうでしょう?

中 島…そういった劣化についてはナイロンと同程度です。

<編>…号数のラインアップは今は3種類だけなのですか?

中 島…現在は8ポンド、3.5号、10ポンド4号、12ポンド5号のみです。これより太い糸は出来るのですが、細い糸となると技術的に難しいのです。
しかし、これだけの号数が揃っていると、アユなどの超極細糸を使う釣り以外は大抵の釣りが出来るんではないかと思っています。

<編>…では、これは何もルアー専門の糸ではないのですね。
感度なんかはどうでしょう?

中 島…やはり太くて伸びがあるので悪いです。

<編>…これも改善策を練ってられるのですね。
比重はどれくらいですか?

中 島…ナイロンより重いです。ナイロンが1・14なのに対してこのフィールドメイトは1・23です。

<編>…売れ行きの方は…

中 島…あまり良くないです。これからの釣人みなさんの意識向上にかかっていると思います。

<編>…それでも売り続けられると言うことは…

中 島…やはり釣糸のトップメーカーである「東レ」としての意地とプライドです。
これからの釣糸は強くて感度の良いものばかりだけではないと思います。
空前の釣りブームだからこそこういった環境に配慮した釣糸も必要になってくると思っています。

◇にわかな運動も
<編>…意地の悪い質問ばかりしてきたので少しメリットや、自慢などを聞かせてください。

中 島…メリットはやはり生分解されるということが最大のメリットです。

<編>…確かにこれは他のどの釣糸にもないメリットですね。

中 島…釣人の意識向上が待たれると言いましたが、実は嬉しい話もあるのです。
岩魚保存会という会が清流を守るために生分解するこの釣糸しか使えない専用区を作ろうという運動をしているのです。
渓流釣りですからもちろん細糸が要りますので試作品をお送りしました。先日のことですので、まだ結果は分かりませんが、こういったムーブメントがささやかながらでもあるのは私達にとっては喜ばしい限りです。

<編>…他にはそういう運動みたいなものはないのでしょうか?

中 島…まだまだメーカーが主導しなければなりません。
先ほども言った河口湖でのバス釣り大会でも多数の方に参加していただきましたので、手ごたえは十分にあります。
このような形での啓蒙をしていくことから始めたいと思っています。

<編>…それでは将来的にはすべての釣糸が生分解性の釣糸に取って変わられると思われますか?

中 島…ならないでしょうね。徐々に時代がこの糸に近づいてくるとは思いますが。ナイロンと同じ性能を持つようになっても、切れて魚をバラしたりすると、糸のせいになってしまいますからね。

◇これからは…
<編>…これからはどういった展開をされるのでしょう。

中 島…やはり率先して大会などを開いて、釣人の意識向上のための啓蒙をしていきたいと思います。
こういった大会でアンケートをするのですが、これも釣人のナマの意見が聞けますし、また世間一般に認知してもらえますので一石二鳥の効果があります。

<編>…思い入れが相当おありだと思いますが。

中 島…やはり釣人のモラルの低さです。何度も言いますが、これからは環境問題が重要になってきます。ただ強いだけ、というのではなくもし切れたときのために、ということも考えてほしい。

<編>…うがった見方をすれば「分解されるのだから捨ててもいいや」と思う釣人が捨てることにつながりかねませんか。

中 島…その辺のモラルの問題ですね。「地球に優しい」と言うのが東レのモットーです。これを世間に広めていきたいと思っています。
ただ、釣具店にあまり置いてもらっていないというのが悩みです。
「欲しいんだけどどこに置いてますか」
といった問い合わせもありますが、まだ少数派です。

<編>…問い合わせがあるのに、釣具店に置いていないと言うジレンマですね。
最後に一言お願いできますか。

中 島…まだまだ改善していくべき課題が山積みですが、それらを一つ一つ解決し、釣人が無視できない釣糸に育てたいと思っています。

<編>…本日はお忙しいところを有り難うございました。


 中島さんが多用されていた「釣人のモラル」という言葉が非常に印象的だった。ぼくも色々と困らせるような質問をしてしまったが、これから質がもっと良くなってくることは確実だろうし、釣人のモラルも向上するだろう。それまで東レが「意地とプライド」を持って作り続けてくれることを祈るばかりである。
 最後に、この釣糸を使っているからといって、そのまま釣場に捨てることだけは慎んでいただきたい。分解するからといっても3〜4ヶ月はかかるので、それまでは自然に有害であることは間違いないことであるから。
 これは中島さんも言っておられたことであるし、同時に編集部一同からのお願いでもある。
(文責在 編集部 永田 淳)