| 新・釣具の知識 15 |
| フロロカーボン |
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■協 力/呉羽化学工業株式会社 シーガーグループ 坂本宣昭 ■聞き手/編集部 永田 淳 |
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「つりのとも」読者の大多数の方は、フロロカーボン素材の釣糸を使用されていることと思う。そういう観点からすると、今回はこの企画始まって以来の、万人受けする内容。ところでこのフロロカーボンについてあなたは、どれだけのことを知っていますか…? ただ強いから、扱いやすいからという理由だけで使っていませんか。今後、道糸、ハリス、釣魚などを問わずさらに多種多様なフロロカーボン釣糸が商品化されそう。今回はこのフロロカーボン素材の釣糸の話です。インタビューに応じて下さったのは日本で初めてフロロカーボン素材のハリスを世に送り出した呉羽化学工業株式会社の坂本宣昭さんです。 フロロカーボンってナニ? 編 まずフロロカーボン素材の釣糸の歴史からおたずねしたいと思います。釣糸として商品化されたのは、いつごろでしょうか? 坂本 昭和45年からフッ化ビニリデン樹脂というフッ素と炭素の化合物、これは白い粉なんですが、このプラントを造って、フッ化ビニリデンを作り始めたのです。 編 これがフロロカーボンということですか? 坂本 フッ化ビニリデンはフッ素樹脂なんですけれども、この白い粉自体を通称フロロカーボンと呼ぶんです。これは万国共通の呼び名です。フッ素のことを英語でフロロといい炭素(カーボン)との化合物ですからフロロカーボンと呼ぶんです。 編 これを釣糸に使おうとしたきっかけは何だったのでしょう。 坂本 呉羽化学は元々「糸」の総合メーカーなんです。漁網や網戸なんかも作っ ています。そしてこのフッ化ビニリデンなんですが、酸に強い樹脂で、水を通すようなバルブやタンクのコーティングなどのために開発したんです。当社は糸屋ですから、これを糸にできないかということで始めたのが昭和46年です。 編 その前はナイロン釣糸を? 坂本 当社は当時、ナイロンは生産していませんでした。このフロロカーボン素材から初めて釣糸を生産したのです。 編 素材の特性としては? 坂本 まず、ほとんど吸水性がありません。ナイロン素材に比べると全くと言っていいほどです。 限りなく0に近く、大気中の湿気も吸いません。そして、水中では見えにくくなります。 編 屈折率の問題ですか? 坂本 水の屈折率が1・33、フロロカーボンは1・42、非常に近い値です。ナイロンは1・53〜1・62です。 編 水とフロロカーボンの屈折率の差は0・09なんですが、これはもうほとんど差がないと考えてもいいような数値なんですか。 坂本 ただこれも全く見えないというと嘘になります。ナイロンより非常に見えにくいということですね。 編 その他の特性は? 坂本 ナイロンと比重が違います。これは長所短所があります。水の比重が1で、フロロが1・78。ナイロンは約1・16なんです。 編 長所短所とは。 坂本 まず長所は、タナまで速く仕掛を沈めることができます。重いので海が荒れたときは仕掛全体が安定しやすくなります。短所は、道糸などに使用したときなどは重いので糸がたるみますね。 編 この他の特性は? 坂本 吸水性がないので水切れがよく低温にも強いことです。ナイロンは吸水して水分を含むので糸の中で水分が凍り脆くなってしまいます。 低温ではフロロカーボン素材の釣糸でも硬くなりますが、素材が通常の気象条件ですと凍ることはありません。 フロロが変えた釣り 編 フロロカーボン素材の釣糸が出現して、「釣り」が変わったと思いますが、発売当初はどんな変化がありましたか? 坂本 当時はナイロン素材釣糸が全盛でした。まったく素材が違う釣糸ということで特殊でした。 吸水性がなく、強度が強く、水中で見えにくいということで、ナイロン糸にくらべて釣果に顕著な差が出ました。 編 フロロカーボン素材は釣糸のほかに、どんな用途に使われていますか。 坂本 手術用の縫合糸や、リチウムイオンの二次電池、超純水などを流すパイプの内部などに幅広く使用されていますが一般的に商品として出回っているのは釣糸ぐらいじゃないですか。他に特殊なところではバイオリンやギターの弦などにも使われています。 強力について 編 釣人として一番気になる強力についてお聞きします。 強力にも引っ張り強力や結節強力などがありますね。引っ張り強力についてはどうなんでしょうか。 坂本 糸の引き方によって変わるんです。(註:糸はノズルから抽出するように紡糸するのでこういう言い方をする。引っ張り強力などの引くとは意味が違うので混同しないように注意)例えば、道糸などは引っ張り強力、直線強力には強いように「引いて」ありますが、結節強力(結んだ状態での強力)には比較的弱いのです。当社はハリスが主力ですので「結節強力」が強いように糸を引いています。ハリスはどうしても結ぶ部分が多くなるので、結節強力にこだわって糸を引いています。ナイロンがよいのかフロロカーボンがよいのか、ということになると、紡糸のしかたによって違うんです。 編 結節強力にこだわって引いたフロロと、道糸用に直線強力にこだわって引いたナイロンとで直線強力を試すとナイロンの方が強いということですか。 坂本 そうなります。しかしフロロカーボン、ナイロンともに直線強力にこだわった引き方をして、直線強力を比べると強さは同じです。逆に、結節強力にこだわったフロロカーボンと結節強力にこだわったナイロンとを結節強力で比べると、フロロカーボンの方が強くなります。ですからどちらが強いのかということは一概には言えないのです。 編 例えばPEラインでは明確にナイロンの何倍の直線強力があるということが言えますよね。 坂本 そこが難しいところですよ。 私もどう答えようかと頭を悩ましていたところなんですよ(笑) 編 紡糸方法により直線強力が強いのか結節強力が強いのかが変わるということですね。瞬間的な力と継続的な力の掛かり方がありますよね。フロロカーボンの場合はどちらに強いのですか。 坂本 ナイロン素材の場合は伸びの限界で切れ、フロロカーボンの場合は伸度が少ないのであるところでプツンと切れるんです。 編 そうするとフロロカーボンの場合は瞬間的な力に問題があるということになるんですか。 坂本 そんなことはありません。 釣糸の場合結節強力ともう一つ耐衝撃性、すなわち合わせなどの瞬間的な力に対する性能も必要なんです。 当社シーガーシリーズの「シーガーエース」より上の糸は二重構造になっており結節強力と耐衝撃性の両方を高める役割を果たしています。 耐衝撃に関してはナイロン素材の釣糸に比べて1・6倍の強度を誇っていますからナイロンの方が結節したときはプツンと切れやすいと言えます。 編 伸度の話が出ましたが、フロロカーボン釣糸は何%ぐらい伸びるのでしょうか。 坂本 釣糸の完成品には20%ほどの伸度は持たせてあります。 編 持たせてあるというと、わざとですか? 坂本 そうです。バランスです。針金のようにまったく伸びない糸はプツンと切れます。しかし、100号のオモリをかけても2〜3%ほどしか伸びません。これ以上の負荷をかけても同じ結果です。ナイロンでは10%以上は伸びますね。伸びがないということでアタリも取りやすくなります。 編 この20%という伸度は切れる寸前に最大に伸びた状態ですね。 坂本 そうです、いわゆる破断伸度です。 編 糸の直径が太くなればなるほど比例して強くなるのですか。 坂本 これはちょっと難しい話ですが強度と強力は違うのです。強力とは「糸を引っ張って何kgの荷重で切れるのか」強度とは「単位面積あたりどれだけの力に耐えられるか」ということです。 ですから太くなるほど強力は強くなりますが、強度は落ちるのです。またフロロカーボンの場合は紡糸技術が高度で難しく均一の太さに糸を引きにくいのです。厳密にいえばどうしても太い細いがでます。今後こういったところを改良し、よりよい釣糸を作っていくのがわれわれの使命だと考えています。 どのくらいもつの? 編 賞味期限みたいなものがあるのですか。 坂本 水分を吸収しませんのでナイロン素材のように劣化が早くありません。紫外線劣化もありません。 編 まったく紫外線による劣化はないのですか? 坂本 まったくとは言えませんが、ほとんどないといえます。 ですから「フッ化ビニリデン(フロロカーボン素材)」を原料にしたシートを使った看板なんかもありますが、これは光(紫外線)による脱色を防ぐためなのです。 編 温度による劣化はどうでしょうか。低温には強いと先ほどお聞きしたのですが、高温には? 坂本 高温はやはりまずいです。 お客様にお願いしたいのは夏の車中やトランクなどに放置しないようにしてくださいということです。高温には何でも弱いものです。通常の状態での保存では10年は品質が変わりません。 編 ガイドとの摩擦などもありますがこれはどうでしょう。 坂本 これもお客様にお願いなんですが、トップガイドだけでもSICを使用してください。どんな釣糸でも同じで通常のハードガイドですとやはり摩擦熱による品質の低下があります。 結びは水分をつけ、ゆっくり締めてください。これも乾いた状態で一気に締めると摩擦熱で糸がチヂレてしまいます。 編 結びの話が出ましたが、フロロカーボン釣糸に最適の結び方はあるのでしょうか。 坂本 結節強力はナイロンより強いですからナイロンと同じように結んでもらって結構です。 クセがつきやすいって本当? 編 道糸は巻きグセとか糸ヨレみたいな糸グセがつきますよね。フロロカーボン素材の釣糸は、糸グセがつきやすい、つきにくいはあるんでしょうか。 坂本 あります。ナイロン釣糸とフロロ釣糸を比べた場合、フロロの方が硬いですから巻きグセや糸ヨレはつきやすくなります。 ただ当社のルアーフィッシング用の道糸「リバージ」なんかは柔らかく作っています。これは当社が原料からフロロカーボン釣糸を作れる強みです。原料の配合などを変えればフロロカーボンでも柔らかい糸を作ることが可能なんです。 しかし、あまり柔らかくても、硬くても強度が落ちるんです。ですからそのギリギリの線で製造しています。 編 糸グセがついた場合はどうしたらよいのでしょうか。 坂本 糸ヨレや巻きグセは引っ張ってもらえれば直ります。フロロには復元力がありますからね。 糸をスプールに巻いて置くと潰れてきて凸凹ができてしまいますよね。しかしこの凸凹で強度は変わりません。 これも引っ張ると直ります。しかしこういった凸凹があるとお客さんは弱いのではないか?と思われますよね。ですからシーガーシリーズの最高峰、グランドマックスは「整列巻き」をして出荷しています。これ以外のシーガーシリーズも整列巻きを順次しています。これは糸屋の命ですね。 二重構造について 編 呉羽さんのフロロカーボン釣糸は「二重構造」ということですがどういった構造なんでしょうか。 坂本 芯と鞘と考えてください。どちらも同じフロロカーボン素材なんですが芯の部分と鞘の部分で分子量が違います。 編 基本的組み合わせはあるのでしょうか。 坂本 色々な組み合わせがあり、一言では言えません。 編 やはり分子量の多い方が強くなるんでしょうか? 坂本 大体、そう考えていただいて結構です。 編 芯と鞘とどちらが分子量が多いんでしょうか? 坂本 正直なところその辺はマル秘なんです(笑)。ただ強さとしなやかさを追求した組み合わせで、この二重構造は特許を取っています。芯が強さを追求していると言えますね。 編 すると鞘の部分は根ズレ対策ですか? 坂本 その辺です。強調したいのはこの二重構造は単一構造より断然強力も耐衝撃性もあるということです。 なぜ高価なのか 編 いやなことを聞きますが、フロロカーボン素材の釣糸は高価ですね。ナイロンに比べてなぜ高いのでしょう? 坂本 原材料の違い、これにつきますね。ナイロンの原料は1kgで500円ほどです。フロロカーボンは1kgで2000円以上もします。 編 色についてですけれども、フロロカーボンの釣糸では着色されているのは見かけないのですが…? 坂本 先ほども話しましたが、吸水性がないので着色が難しいのです。またたとえ着色してもナイロン糸のようにきれいに染まらず色ムラができるのです。またフロロカーボンは瞬間接着剤の効果がなく、接着できる接着剤は現在のところ存在しません。 これから 編 今後のフロロカーボン釣糸の展開を教えてください。 坂本 ハリスはさらに強く、屈折率をより水に近づけ、道糸はナイロン並のしなやかさと、強さを追求していきたいですね。 この他、フロロカーボン素材釣糸に限らず、いろんな構想や夢を持っていますので楽しみにしてください。 最後に、釣師の皆さん、色々な意見を聞かせてください。お願いします。お客さまの声をどんどん取り入れてこれからの開発に役立てたいと思っております。 個人的なことですが、僕はルアーに使うスピニングリールにはフロロを巻いている。そして磯のフカセ釣りにはハリスとしてフロロを使っている。 使っていて何となく感じていたが実際に取材してみて、 「そんなことがあったのか」 「そういえばそうだった」 ということが色々と聞けた。得てして身近なものが一番理解していないものなんだな、と実感した。 |
| (文責在 編集部 永田 淳) |