新・釣具の知識 16
釣鈎の話

■協力/株式会社オーナーばり
■取材/編集部 永田 淳

 釣人と魚との一番最初の接点、それがサシエサであり、サシエサをつけている釣鈎。大昔から鈎の形は普遍的だった。しかし今日では釣魚の種類以上に鈎の種類があり、ありとあらゆる号数がある。
 さてこの釣鈎がなければ、どんなに頑張っても魚との出会いは有り得ない。そんなわけで今回は一番シンプルに見えて、もっとも重要な釣鈎について取材してみた。
 ところでぼくは鈎については結構こだわりがあるのですがみなさんはどうですか?
一度使い出すと、一途に同じ鈎ばかりを買い求めたりしませんか?
こんな人も、「鈎なんて魚が掛かればそれでいいや」という人も釣鈎ができるまでをちょっ覗いてください。職人気質の世界が見えてきますよ。

釣鈎各部の名称

 まず釣鈎を知る上で基本的な各部の名称を記しておこう。
 まず糸を結ぶところが「耳」、その下から最下部までを「軸」、カーブを「懐」、そこから上までを「イケ下」出っぱりを「カエシ」「モドリ」「イケ」そして「鈎先」となる。
 ルアー用のワームフックなどは順に「アイ」「シャンク」「ゲイプ」となり、「イケ下」に変わるものはなく、「バーブ」「フックポイント」となる。この他に「第一クランク」「第二クランク」などがあるが、ややこしくなるのでこの辺でやめておこう。

釣鈎ができるまで

 まずコイル状の鋼の素材が原材料となる。これを伸ばして一定の長さに切るのが第一段階。この作業を「直伸」という。この鋼の太さや、切る長さでできあがる鈎の大きさなどが決定される。これはオーナーばりの本社工場で行われる。
 次に「尖頭」と呼ばれる先を尖らす工程になる。これは播州地方に多数点在する職人さん達の手によって行われる。はたから見ていると湾曲したグラインダーに切断された鋼をかけていくだけのように見えるのだが、相当の熟練を要するという。見学させていただいた村上さんも尖頭一筋の職人さん。

「機械ではできないのですか?」
とオーナーばりの中道企画部長に尋ねると
「機械でもできるが、村上さん以上に尖った鈎先は作れない」
とのことだった。
 日本の釣鈎の特徴としては鈎先に丸みが持たせてある。これにより鈎先に厚みができて丈夫になり折れにくいそうだ。
「丸みがある分刺さりが悪いのでは?」
という疑問も当然あるだろうが、
「日本の鈎が世界で一番鋭いです」
と中道部長は胸を張る。
 実際にカナダ製などの鈎を見せてもらったが刺さり方は日本製の方が断然良かった。

単純作業ほど要熟練

 所変わって笹倉さん宅にて「成型」といわれる工程に移る。これは一般的に
「曲げ」とも呼ばれ、鈎を形作る段階である。
 まず両端を尖らされた鋼を数十本、クリップのような工具に挟み、中央で切断。切断した部分をプレスして耳を作る。
 次にカンナで傷をつけてカエシを作り、金型に圧し当てて形を作る。金型は鈎の種類×号数分あるわけでその数たるやすごいものがある。
 この一連の工程がわずか1分もかからない。
 これも単純そうに見えるが、
「一人前になるには最低でも4年はかかる。カエシを作るときや金型に当てるときの力加減で同じ道具を使っても全然違う鈎ができる。毎回均一な鈎を作れるようにならんとあかんわけで、そのためには機械を使いこなす技術が必要になる」とはオーナーばり専門に鈎を卸しているつりばり森の森武司代表。森さんは職人上がりであるだけに、オーナーばりから全幅の信頼を得ている。
 オーナーばり社長の中道さんも
「大学出の新人が職人の所に鈎をもらいに行って文句をつけても、向こうは何十年もやっている職人やから受け付けてくれへん。森さんは職人上がりやからだれも文句がつけられへん。そやから森さんの顔色が悪かったりすると心配なんや(笑)」と半分冗談めかしてはいたがそこには確固たる信頼関係が見受けられた。
 さらに「単純そうに見える作業ほど技術や熟練が必要になってくる。ほんまにいいもんは10年以上の修行をせんとでけへん」とも言っておられた。

車のフレームより難しい

 次に「平打ち」の工程であるが、これは社外秘らしく、見学は許可されなかった。平打ちは鈎の剛性を高めるためと見栄えをよくするためらしい。てんでバラバラの鈎をどうして向きを揃えてプレスするのか非常に興味があっただけに残念。
 そして「焼き入れ」に。これは鈎に剛姓、硬さを持たせるための工程。それまでの鈎は簡単に曲がってしまう軟らかいものだが、焼き入れをすることによって硬くなる。800〜850度の高温で数分間焼き、油で冷却する。この焼き入れにもマニュアルというものがなくて、あくまで勘に頼るところが大きいらしい。

「昔、うちが小さかった頃は炉がなくて自動車の工場で焼き入れしてもろとったんや。車のフレームなんかの焼き入れは何度で何分間、というようなしっかりしたマニュアルがあったのに、鈎の方はそんな基準がない。それだけ鈎の焼き入れは難しいんや。かたや車は命を預けるもので、釣鈎は趣味のもんやけど、趣味の方が難しいというのも面白い話で、それだけ釣鈎には味があるんやなあ」
と中道社長は感慨深げだった。
 焼き入れは鈎に硬さを持たせるもので、これだけでは「ポキッ」と折れてしまう。そこで粘りを持たせるのに必要なのが次の「焼き戻し」の工程。
 これは300〜400度の低温で焼く。これも長年の経験と勘が必要らしく、何度で何分とは一概に言えないらしい。

理想の釣鈎とは

 これで鈎としては一応完成ではあるが、最終仕上げが残っている。
 まず「化学研磨、液体研磨」。職人さんが研いだとはいえ、やはりある程度のバリなどが残っているもので、それを薬品を配合した液体の中に漬けてとるための工程。これは次のメッキ加工を施しやすくするためでもある。
 そして「メッキ、着色」をして完成。
 色についてもさまざまあるがどれがいいのか?という問いに
「鈎にはいろいろな色があるけど、どれがいいのかということは釣人の希望なんや。ある人は地味な見えにくいもんがいいというし、キラキラ光って魚の目につきやすい方が食いがいいという人もおる。それを決めるのは釣人や」
「形も色と同じでさまざまあるけど、基本的には釣人が使ってみて、この形がよく釣れたとなるとその鈎はよう売れるし、そうでないもんは自然と淘汰される。あくまで釣人の要望に応えるのがうちらの商売や」と中道社長。
「理想の釣鈎とは何ですか?」
の問いにも中道社長は「軽くて強い鈎が一番。これを作るのは釣鈎屋の使命。イシダイ釣りなんかの一日にほとんどアタリがないような釣りでも、釣人はアタリを待ってますわな。あれはアタリがあれば確実に刺さって、絶対折れへん鈎や、と信じているから待てるんや。
それが掛かっても折れるような鈎なら誰もアタリを待ったりせえへん。だから釣人にアタリを待ってもらえるような鈎作りをせんとあかん」
「例えばどうなって魚が鈎を口にしてどうなって口に刺さるかということが完全に解明されたら釣りは面白くなくなるんやないか? 趣味の釣りやから、この鈎で絶対釣れる、と信じて釣るから面白いんとちゃうかな」
ということだった。確かに「絶対に釣れるパターンが分かったら釣りなんかやめてしまう」と公言する名人も多い。そんなものなんだろう。

最後に

「釣鈎を作る上で気を遣うことは?」の質問に森さんは
「何から何までですね。鈎先や硬さは勿論、素材を扱うところから運搬までですね」
中道社長は
「糸が切れた場合には釣人は『もう一つ上の号数を使っておけば良かった』と思うもんやが、鈎が折れた場合には『もうこの会社の鈎なんか使うか』ということになってしまう。だから絶対に折れへん、よく刺さる鈎を作ることやな」
 ということで、今回は釣鈎ができるまでということで取材してみた。いろいろと小難しい質問を用意していったのだが、なんだかそんな質問がチンケに思えるような職人はだしの方々だったので、今回はインタビュー形式を敢えて採らなかった。
 中道社長の「単純そうに見えるものほど熟練がいる」「釣鈎の刺さる仕組みが完全に解明されたら釣りは面白くなくなる」という言葉が非常に印象的だった。
                       (文責 編集部 永田 淳)