| 新・釣具の知識 3 |
| SiC(エス・アイ・シー) |
| まとめ 編集部/武富純一 |
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磯竿、船竿、ルアーロッド……ガイド付きの竿はいろいろあるが、ちょっと高級な竿になると、その素材は決まってSiC。 その昔、私が釣りを始めたばかりの頃、ある釣具屋でシーバスロッドを買おうと迷っていたら、店員さんが来てアレコレ説明した後「それにガイドはSiCですし……」と、何かもったいぶった言い方をされた。何のことかわからなかった私は「とにかくいいガイドというわけなんだろう」という判断でその竿を買った。店員さんはその時、SiCを「シック」と言った。今なら言える、これは「エス・アイ・シー」と読むのです。(カンケーないけどパソコンのNECを「ネック」と言う人もいる)。 さて、今や高級ガイドの代名詞とも言えるSiCだが、意外とその本質は知られていない。竿本体に目はいくが、ガイドにまではあまり目が向かない人が多いかもしれない。ところがこのSiCリング、私たちが魚を釣っている陰で大した働きをしてくれているのだ。その役割、あなたはどこまでご存じだろうか。 SiC前史 まず、SiCの話の前に、ガイドの働きとその開発の歴史に触れておこう。 ガイドには一体どんな役目があるか? まず誰でもわかるのはその名の通り、手元の糸を穂先まで導いていく役目。リールから繰り出される糸はいくつものガイドを通って穂先までまっすぐ導かれる。人類の長い釣りの歴史の中で、“道糸をドンドン繰り出す”という作業が生まれた時、すでにガイドという概念はできていたことだろう。 最も初期の素材は鉄、つまりハリガネだった。ところがここに大きな問題があった。糸が擦れてガイドに溝ができてしまうのだ。一度使ったナイロン糸は静電気のためこまかな砂や塩がつき、表面がヤスリ状になっているという。これでガリガリ擦られたら鉄はひとたまりもない。おまけに鉄はサビる。 糸との滑りを良くするには硬くて錆びないものでなければというわけでガイドのトップメーカー富士工業(株)が開発したのが、1963年に登場したフジセラリング。これはアルミナ入りセラミックで、針金と比べて硬さがあり錆びないという特性を持っていた。 その後、1967年にアルミオキサイド製でフジセラリングの二倍の強度を持つFUSIハードリングが作られ、1980年になってSiCが登場した。 公開特許公報を見ると 1982年の冨士工業(株)の公開特許公報の一部をざっと要約すると、もともと外洋におけるカジキマグロ、サメ、ヒラマサ等を釣り対象とするいわゆるヘビーデューティー用として開発されたものとある。ヘビーデューティー用の釣用導糸環としてはローラーガイドがあるが、コストの他、部品点数、サビ等の問題で回転が損なわれやすい。反面、当時のリングガイドは大物が釣れた時にガイドと釣糸の摩擦により糸切れが生じた。−−従来これらの糸切れの原因はガイドの表面の荒れに起因する損傷にあるとされていたが、根本的な原因究明の結果、ガイドの摩擦による発熱が原因となって糸が半ば溶断する如き状態となって切断することが判明した。−−というわけで放熱効果の良いガイドの開発にとりかかり、やがてSiCの誕生となったようだ。 ふむふむ、もともとは外洋の大物釣り用に開発されたものらしい。 SiCの特徴 SiCとはシリコンカーバイトセラミック(炭化ケイ素)の略。 もともと航空機や宇宙開発向けに開発、使用されていたものだが、滑りの良さ、軽さ、強度等、ガイドとして求められるすべての特性をそなえた素材だ。 表Aを見て欲しい。SiCの特性を他の素材と比べたものだ。 これを見るとダイヤモンドに次ぐ硬さ、アルミナの2倍近い硬度を持つことがわかる。また粒子の結晶が極めて密だから摩擦係数が少なく糸の出がスムーズになる。 また、軽さはステンレスのおよそ3分の1。しかも強度があるためリングの厚さ、幅を小さくすることができるので、ガイド全体をさらに軽量化させることができる。これは結構大事なことで、竿本来が持っているアクションやアタリの感度をガイドを取り付けることで損なわずにすむわけだ。 さらに耐熱性の面ではSiCを1000度に加熱し、急激に冷やすテストを繰り返しても全く表面に変化は起きない。 抜群の熱伝導率 ガイドリングにはさらに重要な役割がある。それは先ほど出てきた熱伝導性。ラインがガイドを通過する時、その接点ではライン、リング両方に摩擦熱が生じる。ラインの方は走っているので熱はたまらないが、リングは一点に集中して熱を帯びるようになる。リングの熱伝導率が悪ければ図のように熱がたまり、その熱でラインは傷つけられてしまう。どんなに強いナイロン糸だって高熱には弱い。SiCは摩擦熱がリングの内部に速く拡散するため、熱でラインが切られることがない。これはトローリングなど大物クラスの釣りはもちろん、グレ、チヌ等の細い道糸でも言えることだ。 SiCの上を行くゴールドサーメット さらに冨士工業は1991年、SiCの次を行く最先端素材としてゴールドサーメットリングを発表した。これはセラミックスとチタンの複合でSiCの二倍の強度を誇るという。 一見、小さなリングにしかみえないが、先人たちのこうした素材の工夫の歴史が、現代の私たちの釣りを支えているのだ。(純) |
