月刊つりのとも[98/11]


ライフジャケットがあなたの命を救う。


    取材=9月8日 文・写真=編集部


 ライフジャケット…不意の落水や高波から釣人の命を守る用具として、波止や船、磯釣りでは不可欠なものだ。しかし、このライフジャケット、イザという時「ホンマに浮くのか?」という疑問は誰もが持っているに違いない。海防訓練に参加した人や実際に事故に遭った人はその必要性を体感しただろうが、そうした経験のない釣人は結構多いに違いない。

 そこで編集部では「こうした疑問は実際に海に飛び込んで確かめるのが一番!」ということで須磨海岸の波止で「飛び込み大実験」を敢行した。はたしてライフジャケットはどれほどの浮力で釣人を守ってくれるのだろうか?
 その他、又ヒモを付けずに飛び込んだらどうなるか、古いライフジャケットの浮力は劣化するか、救命具代わりになる道具等、釣人なら知ってて損のない実験報告がいっぱい。尊い命を守る必携アイテムだけに是非読んでほしい。

 海水浴シーズンを終えて人気の無いウィークデイの須磨の波止。この日は好天でまるで夏を思わせるような陽気だった。そこへ、釣り道具を持たず、カメラバッグとライフジャケットを持った怪しい二人連れが立った……。いよいよライフジャケット浮力実験の開始である。
 まずは、入念に準備体操をし、がまかつさんより提供いただいた新品のライフジャケットを身につける。
 第一投目(?)は、又ヒモをしっかりセットし、磯靴を履いての完全モードで挑むことに。
 身構えてしばし躊躇した後、意を決して9月の海へジャ〜ンプ!!
 ザップーン、ゴボゴボゴボ……。
目を開ける勇気がなかったので眼前はただただ暗黒の世界。耳の周りを無数のアワが立ち上り、しばらくの間ボゴボゴ音に包まれる。
 どのくらい沈んだのかわからないが、あとで聞くと「かなり底まで沈んでたデ、いつ浮いてくるのか不安になったワ」。これはやはり体重の重さゆえか?
 気がつくとポッカリ海面に顔が出ていた。
 オオ、浮いた、しっかり浮いてるゾ!。じっとしてるだけでブカブカ浮いてる。こりゃ楽だワと四肢の力を抜いてしばし波間を漂う。 さっきまでの不安とはうらはらに、もう安心感さえ感じてしまい、気分も姿もまるでラッコのよう。
 磯靴に溜まった空気のため、足先がかなりの浮力で浮き上がってしまう。これは意外な発見だった。 そのまま足をバタつかせると磯靴は半脱げ状態になった。靴のままではやはり推進力は弱い。無理矢理脱ごうとしたが、吸盤状態になってなかなか脱げなかった。
 次に、直立姿勢になってみると、浮力で持ち上がるジャケットが又ヒモをグイグイと引っ張り、それが股間に食い込んで大事な部分がかなりイタイ。これも陸では解らなかった発見だった。

次は又ヒモ無しで

2回目、今度は又ヒモを掛けずに飛び込んでみた。低い波止からだからスッポ抜けにはならなかったが、ご覧の通りのジャミラ状態。高さのある釣場から不意に落ちたらスッポ抜けの可能性は大いにあるだろう。又ヒモをセットしてるのとしてないのとでは、安全面で格段の差が出ることを実感した。 磯釣りで、又ヒモをしていたか否かで命の明暗が決まったという話を聞かされたことがある。又ヒモは忘れずに必ずセットしよう。

意外と役立つクーラーと水汲みバケツ

 次はクーラーを投げ入れてもらい「クーラーは浮き輪代わりになるか」という実験開始。浮いたままジャケットを脱ぎ、そのままクーラーにしがみついた。
 つかまってみると、かなりの浮力があり、充分に浮き輪代わりになることが解った。
ただ、長時間しがみついているのは姿勢も悪くかなり疲れる。一時的には浮き輪代わりになるものの、やはりライフジャケットの方が数段楽だ。また、あまり大きなクーラーだとつかまりにくい。
 そろそろ疲労で泳ぐ元気がなくなってきたので、水汲みバケツのロープを投げてもらって岸辺まで引っ張ってもらうことにした。このロープはバケツがオモリ代わりになってかなりの長さのロープを投げることができ、イザという時には結構役に立つ。緊急時のため、水汲みバケツのヒモは長めに巻いておいた方が良いだろう。

古いジャケットは浮力が低下

 3回目、最後のジャンプは使い古しのジャケットに着替えて飛び込んだ。これは7年ほど前に買って、かなりの釣行で酷使したもの。これで落水した経験は無いということだが、何度も丸洗いしている上に色褪せも激しい。
 又ヒモを掛けて飛び込むと、確かに浮いたが、一回目と比べて明らかに浮力は弱かった。
 最初の新品ジャケットが1号負荷の円錐ウキとすれば、これは浮力ゼロのシブシブウキのよう。浮いてる姿勢も幾分不安定。おまけに背中側の浮力材の安定が悪く、中で折れ曲がってしまった。
 機械に金属疲労という現象があるように、浮力材もあまり古くなると浮力はやはり弱まるようだ。長年同じライフジャケットを使っている人は要注意。ぜひ買い換えをオススメする。

あなたの命を守るために

 磯釣りを始めて間もない頃、予算不足で安物の竿やリールばかりを買いまくっていた私だが、ライフジャケットだけは一番高くてよく浮きそうなのを選んだ覚えがある。
 タックルを安物買いするのは貧乏でしかたないにしても、我が命を守るべき大事な用具をケチるのはどうも……と考えたのだ。
 釣り竿が魚を釣るためにあるなら、ライフジャケットは釣人自身の命を守るためのもの。魚と命、どっちを取るかと言われて魚を取る人はいないだろう。命あっての釣りの楽しみである。あなたの命を守るために、どうかライフジャケットだけは、ケチらず良いものを着用して欲しい(できればもちろん釣り道具もそうしたいけど)。
 それから、磯ではほぼ全員の釣人が着用しているが、波止へ行くと着けてない人がほとんど。波止は一般に足場が良いため安心感があるからだろう。
 しかし、高さのある波止やスリットの多い所などは磯と同等の危険が伴う。こうした所ではライフジャケットは必ず着用すべきだろう。子供用も販売されているし、渡船には必ず常備されているからこれを活用するのも手だ。

■中に入っている浮力材。最近のモデルは出し入れも簡単。厚みのある方が浮力は強くなるのだろうが、見栄えやデザイン面で問題がある。かといって薄くしすぎると浮力が低下する。このあたりがメーカーが気を使う点だろう。




「エッ、オレがやんの?!」
さる筋よりご指名うけて、初秋の海に飛び込むはめに…。

●編集部/武富純一

 編集部で「ライフジャケットの浮力実験をやろう」という企画が持ち上がった時、即座に「そりゃオモロイやんか、やろやろ!」と言ったのだが、その時はまさか自分が実験台になろうとは思ってもみなかった(まぁ自分がやると解ってたら賛同するわけないけど)。

 私が被験者になってしまった経緯を話しておこう。
 今回は(株)がまかつに主旨を理解していただき、広報のS氏にお願いしてライフジャケットを一着提供していただいたのだが、その話の最後にS氏曰く、「こういう実験は、やっぱり一番重たさうな人にやってもろた方がエエのと違いますやろか?」。

 つまり暗に(というかストレートにというか)私をご指名してくれはりましたのです……。
 クク〜ッ、毎月広告を掲載いただいてるクライアント様よりのご指名とあっては逃げるわけにいかない。
 そして運命の取材の日。せめて暖かい日にと願っていたら、幸いにもこの日は夏を思わせる陽気。水温は温かくて安心したが、風に吹き寄せられて波止の周り一面を漂うゴミ&泡状の汚い浮遊物がとっても気になる。

「準備OK、いつでも飛び込んでよ〜」とカメラを構えた編集長。
「よっしゃ〜、イクで〜」と覚悟は決めたものの、いざ飛び込むとなるとやはり恐怖心がググッと頭をもたげ体がかたまってしまい「ちょ、ちょっと待って…」

 今思えば、意を決して飛び込む瞬間までが恐怖の絶頂だった。
 でも、お陰様で海に落ちた時の感覚と対処を身をもって体験できたし、ライフジャケットを着ける意義と価値を身をもって実感することができ、とっても良い体験になった。
 しかし、海に飛び込む企画はもうイヤだ! 次は「高級ロッド性能実験、グレ40pオーバーを釣りまくり!」とかやりたいなぁ。