Web版つりのとも


明石沖のメバル釣り 99/4月号


●南村健治

リールを買った。
別段、珍しいことではない。
正確に云うなら、思わず、リールを買ってしまった。
この状況も特に珍しいことではない。
だれにでも、ということはないだろうが、よく起こりうる事故ではある。
実は、僕はすでにリールをミカン箱にふたつ持っている。
自慢ではない。
愚行である。
どのリールのードラグもギヤーも、努めて優秀な状態にある。
釣場に復帰させれば、衆人が感嘆の声を発するであろうオールドなリールも完全な状態にある。
断っておくが(偉そうにしているのではありません)僕は釣り道具の後始末に極めて粗い。
なのにリール違が努めて優秀な状態にあるのは、はっきり云ってあまり使用していないのである。
リール違は切ない思いをしているに違いない。
怒りの声をあげているに違いない。
潮風にあたり、魚の鼓動をその身に感じたいと願っているに違いない。
そのことを思うと胸が張り裂けそうである。
リール虐待である。
申し訳ないと思う。
合い済まないと思う。
ふたたび胸が張り裂けそうである。
にもかかわらず、リールを買った。
思わず、とはいえひどい話である。
しかも、電動リール。
自慢ではない。四台目の電動リールである。
S社の電動丸一〇〇〇H。
当初は買う予定はなかった。
端から、なかった。
手に触るつもりも、ショウウインドウを見るつもりもなかった。
つまり、釣具屋に行く予定がなかったのだ。
頑なに、緊張感を持って釣具屋を遠ざけていたのだ。
行けば、買ってしまう。あれやこれやと買ってしまう。
それは自分が一番よく知っている。
物的証拠もある。
竿は、抱えようとしても手が回りきらない大木のごとくにある。
一本で大木ではない。
そんな釣竿はない。
たぶん。全て束ねるとそうなる。
高々と、凸凹と積みあげられたクーラーは、平らに並べるとダブルベットが完成する。
寝たことはないけれど。
そして、これらの品々も、現場に復帰させれば力一杯有能に働く。
自慢ではない。
全て一流メーカーの品々。
一盛いくらで売られている物ではない。
愚行である。
欲しいと思うと、それを押さえられないのである。
だから釣具屋には行かない。
いや、行けないのだ。
しかし、そうは云っていられない時もある。
実は、僕は「モーリス」のフィールドスタッフをしている。
フィールドスタッフというのは、例のアレ。
身体中にワッペンを貼りつけ、時に嬉しそうに、時にこむつかしそうに魚を釣る、アレのこと。
だから、たまには正規に商品の紹介をしなくてはならない。
「モーリス」の製品には「バリバス」という商品名がついている。
敏感で屈強なPE道糸には「テンバイテン バリバス10×10」
強靱で無吸水性のあるカーボンハリスは「バリバスフロロ365」
ハリは「グラン」という商品名。
魚が好んで口にするという。
で、このたび、新商品が出た。
仕掛糸専用の「エステック」
エスタックではない。それはたぶん風邪薬。
「エステック」ポリエステル100%のハリス。
腰が強く、クセがつきにくいので胴突仕掛によい。
突然だが、宣伝はここで止める。
あまり長くやると編集者に削除される恐れがある。
そうなると元も子もなくなっちまう。
何故、釣具屋に行かなければならなくなったかという、ハナシを続ける。
新商品に対しては、他社の同種の商品と比較検討しておく必要がある。
11ヶ月振りの釣具屋はバーゲンセールの真只中であった。
と、いうのを実は後々に知ることになる。
釣具屋到着時は、かつての二の舞を踏まぬよう、極度の集中かつ緊張状態であった。いわば、斜眼帯を自ら付けたサラブレッド状態であった。
直線的に店内を進み。
素早く四コーナーを曲り。
他社の同種の品と比較検討を行い。
実釣検分のため、それらを購入した。
レジ係のお嬢さんが、キイを軽々と叩く。
安いッ。
「ただいま店頭表示価格より一割五分引で商なっております」と、
お嬢さんはメバルのような声で告げた。
目的を達成し、無事にゴール板を駆けぬけられる喜びに、極度の集中力と緊張感がわずかに強みをみせていた矢先のメバルの声。
全身のたがが外れ、斜眼帯がパラパラと床に落ちた。
店内が明るく隅々までよく見えるようになって、冒頭のように、電動丸一〇〇〇Hを買っていた。
何故だか金はポケットにギュウギュウとある。
竿を手に取っていた。
D社の瀬戸内メバル400I。
それを、買った。
もう一本。
同じくD杜の浦舟メバル240…。
これはキス釣りに使う。
きっとよく釣れるに違いない、と思い込む。
その後も店内をうろつき、這いずり回るようにして、あろうことか、クーラーをも買ってしまった。

D社のRVトランク2000R。大漁を確信して3000Rを思わず買ったのは11ヶ月前のことであった。
これで外国人向きのダブルベットが完成した。
愚行であるが、感動的でもある。
と、同時に恐ろしい事が脳裏をよぎった。
白鳥のような僕の妻になんと説明したらのいのだろう。果して感動は伝わるのだろうか。

2月13日。メバル釣りに行った。
山ほど釣具を買って。
山ほど魚を釣ったことは、ない。
その証拠写真を、このたび勇気を持って公開する。
楽しい一日であったことを付け加えながら…。

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(俳人・阪神沖釣クラブ)