Web版つりのとも


丹後半島経ケ岬沖の釣り 99/8月号


●南村健治


いつもそうだけど、今回はまことにもって、個人的なハナシ。
かねてからの懸案であった歯の治療のこと。
できることなら一生を避けて暮らしたかったのだが、ああ、遂にそうもいかなくなっちまって、歯科医院の、例の診察台に身を横たえることになった。
体重85kg。ウエスト100cm。
堂々たる体を縮こまらせ、手に汗をにじませていると、歯科医が抜歯器具を(ペンチではあるか)キラリとさせながら、それでもにこやかに。
「抜きましょう」
「それしか方法はありません」なんて、言いながら、
「メキッ」
「ズボッ」
と、左下部の奥の歯を毟り取るように抜いた。
「どう、スッキリしたでしょ」と、またもやにこやかに笑いながら、
「明日、もう一本抜きましょう」
「そして、そこに義歯を入れましょう」
「それしかありません」と、言い放ち、ことはトントンと進み、数日後に義歯ができた。
しかし、それを入れると、口のなかがヘンでしかたがない。
外すと、物が噛めない。
入れると違和感が著しく、食べた物の味がしない。
すぐに慣れるのだろうけれど、気分がすぐれない。
体力よりも心力が衰えてゆきそうになる。
これは問題である。
で、ウォークマンを買った。
気分一新。
いつでも、どこでも、心力を回復させるのである。
とはいえ、贔屓の歌手は少ない。
復帰後の都はるみ。
井上陽水。
それだけである。
都はるみは初々しくなった。
井上陽水は歌詞が理解できない。
だから贔屓にしているのだけれど、最新式のMDウォークマンにたった二人というのはいかにも寂しい。
あれこれ、思いを巡らせていると、津軽三味線の高橋竹山。
それと、ロックの奥田民生が頭に浮かんだ。
竹山は怒りと、粘り強さと、土の匂いがする。(なんやようわからんが)
民生はエネルギッシュにダラダラと反抗的でよい。
これでメンバーが決まったわけだが、実はまだウォークマンの使用説明書を判読していない。
電動リールを新規に買った時もそうだったけれど、素人にわかるような説明書を作って欲しいと切にお願いをする。

6月19日。
丹後半島の経ヶ岬沖で、ヒラメとか、アコウとか、ガシラとかを釣りに行ってきました。
今回はメンバーが少し違います。
ちょっとしたきっかけで、とある大企業の釣りクラブの人達とご一緒、いえ、お邪魔をして混ぜてもらうことになりました。
橋渡し役は、いつもの橋本さん。
メンバーをそれぞれ紹介をしてもらいましたが、すみません。僕は人名を覚えるのが大の苦手。
だから、もう、あの、申し訳ないのですが、ゴメンナサイ、スミマセン。
洗い熊のような感じの人が、良型のアコウを釣って。
瞳が大きく、キラキラとした(団栗眼ともいうが)人が船に酔ってしまい。
潮が動かなくて。
雨が降ったり。
何度もポイントを移動して。
ソイがまだ釣れて。
オキメバルがまだ釣れて。
サイのような人がガシラを釣って、にっこり笑い。
マトウダイがヒラヒラ釣れて。
ヒラメが釣れなくて。
根掛かりが何度もあって。それでも皆がニコニコと。
ワイワイと。
悪たれ口を叩き。
楽しい、素敵な一日でありました。

釣りから帰ると、突然ですが、サクランボが届いていました。
純日本、山形産のサクランボ。
甘酸っぱくて、おいしいのですが、とても高価で買うことができません。
このサクランボ、実はウォークマンを買った時の景品なのです。
ガラガラ、ポン。
黄色い玉が出て。二等賞。
カタログから賞品を選んで下さいとのことなので、サクランボを頼みました。
箱のフタを開けてみると、なんだか量が少ない。
もうすでに、半分ぐらい食べられてしまっているのです。
家内と娘に。
僕も、しっかりと口に入れました。
甘酸っぱさが口に広がるはずなのに、ヘンなのです。
白鳥のような妻も。
ジャリン子チエの親友のヒラメチャンのような娘も。
「おいしい、おいしい」と、手を伸ばしてきます。
僕にはヘンな味しかしません。
「そうや、そうや、お父さん、入れ歯や」
娘が言うのを、
「入れ歯ではない、義歯と言え」と、たしなめておいて、サクランボを口に入れます。
まさに、山形の光と風を思わせる、甘酸っぱい味がして。
なんだか、とても幸せ。幸せ。
あれまッ。サクランボの種が抜いた歯のところにはまってしまい。
アハハハッ。
幸せ。
幸せ。

■問い合わせ
宮津/養老漁港
末広丸 TEL.0772・28・0628

(俳人・阪神沖釣クラブ)